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REVIEWレビュー

金津創作の森開館10年に思うアートの新たな役割

金津創作の森(福井)
金津創作の森(福井)
社会の価値観がこれほど多様化した現代では、表現世界も芸術・文化の領域に止まらず、地球環境問題も含め、人間社会のあらゆる側面と関連しているよう思える。 美術の世界も、アーティストが自己の表現だけに固執するのではなく、美術の文脈を超えた幅広い視点で、社会における新たな役割を創造することが必要だろう。 昨今、国内外を問わず、地域再生事業の一環とし、現代アートの創造性や地域文化の力を媒体とする動きが活発化している。 この事は、‘90年代以降の芸術表現が、美術館や劇場・文化施設といった閉じられた領域から、社会の中へと表現の場を求めて行った動向と結びつく。 アートが地域に関わることで、その土地固有の歴史・文化の再発見など、21世紀に向けた地域再生への可能性を示唆するものとして、その役割を担い始めているのだ。

金津創作の森(福井)
金津創作の森(福井)
海外の事例を挙げるまでもなく、アートや文化を主役に、地元住民が元気や誇りを取り戻している活性化プロジェクトは国内にもある。 筆頭に上げられるのは、豪雪と過疎に悩む新潟県越後・妻有を舞台とした地域振興プロジェクト「大地の芸術祭」である。2000年にスタートしたこの芸術祭は三年に一度開催され、日本の原風景とも言える棚田や里山を舞台に、美術の持つ力によって、その土地固有の潜在能力を発見し、その魅力を高めて世界に発信してきた。 当初、アートとは無縁のこの地での活動は、地域住民の理解を得られず困難を極めたが、今では多くの賛同者と共に、‘06年開催時は、一夏に30万近い来場者が、この里山の自然とアートの競演を楽しんだのである。

次に瀬戸内海に浮かぶ小さな島、「直島」は、10年前までは、人口わずか3.500人の高齢化の進む島であったが、‘98年より島内の廃墟となった古民家を、アーティストによって、家空間そのものをアート作品に蘇生する「家プロジェクト」を展開。 この一連のプロジェクトは、島の歴史や人々の生活・記憶をアートによって全国に発信することで話題となり、2004年には地中美術館がオープンしたことで、海外からも注目され、来島者は年間10万人を越える国際的な島となった。

以上、この二つの事例が、決して他県での特別な成功例だとは思わない。 アートや文化を媒体とした地域再生事業は必要不可欠であり、地域がそれぞれに固有の文化的パワーを持たない限り、その地域はいずれ衰退の一途を辿るという認識は深まりつつあるよう思える。

金津創作の森(福井)
金津創作の森(福井)
先日も他学科の学生が僕の研究室を訪ねてきたのだが、彼の卒論テーマは「歴史・風土・文化を踏まえた地方都市再生のあり方」という内容から、富山・石川・福井を回って来たと言う。彼は東京出身ということもあり、北陸の情報は事前にインターネットで集め、幾つかの都市、文化施設をリサーチしたとのことであった。僕も個人的な興味から、「福井は、どこへ?」と尋ねると、福井ではあまり時間もなく、永平寺と金津・創作の森に行って来たとのことであった。若者にとって、創作の森が永平寺と並ぶ福井のホット・スポットであることに、僕も驚きを隠せなかった。創作の森も今年で開館10周年を迎え、昨年はそのプレ記念企画とし、あわら市環境アートコンペや環境芸術学会が開催され、今や金沢の21世紀美術館と並び、北陸における芸術・文化情報の発信地となっている。

寄稿 福井新聞 2008年7月21日
土屋公雄

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